IQと身の回りの合計値類(身長、BMI、エネルギー消費量)の類似点

『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口 幸治、新潮新書)を読んでいて、IQがほぼ正常でも生活に困る人がいることを知りました。本ではその原因のひとつとしてIQ(おそらくWISC-IVによる全知能IQ=FSIQ)がいくつかの検査結果の合計値であること、合計値であるIQ(WISC-IVならFSIQ)が一定水準を上回っても検査結果のどれかが低すぎればその能力を原因として生活に障害を及ぼすことが紹介されていました。本の内容とはずれるのですが、日常にも実は合計値であるものってたくさんあります。

正確な計算式ではないと思いますが、WISC-IVのウェブページで公開されている項目を単純に足し合わせるとFSIQ(WISC-IVによるIQ)は次のように表せます。

 \mathrm{全検査IQ (FSIQ)}=\mathrm{言語理解指標 (VCI)}+\mathrm{知覚推理指標 (PRI)}+\mathrm{ワーキングメモリー指標 (WMI)}+\mathrm{処理速度指標 (PSI)}

身長もFSIQに似ています。大雑把になりますが次のように表せます。同じ身長でも頭が長い人、首が長い人、胴体が長い人とさまざまな人がいて、身長が高くても座高が高いことを気にする人は足が長ければ良かったと悩むこともあるかもしれません。測定されるのは主に身長ですが、私たちはスタイルを考慮してより細かな座高や脚の長さを踏まえて悩みます。

 身長\simeq 頭の長さ+首の長さ+胴体の長さ+脚の長さ=座高+脚の長さ(長さは上下の長さ)

BMIやエネルギー消費量もFSIQに似ています。大雑把になりますが次のように表せます。BMIはダイエットの指標となりますが、過度の食事制限だけで体重を減らすと脂肪重量だけでなく除脂肪体重も落ちて除脂肪体重に含まれる筋肉も減少することから、体重は減ったけど基礎代謝量も減少してリバウンドしやすくなったり運動機能の低下が生活に支障を及ぼすという問題も聞くことがあります。エネルギー消費量も筋トレによる基礎代謝量の向上がよく聞く表現かなと思います。これらはBMIやエネルギー消費量という合計や合計を用いた値だけ見ていては意識しない部分です。

 \displaystyle \mathrm{BMI} = \frac{\mathrm{体重[kg]}}{\mathrm{身長[m]}^2}=\frac{(\mathrm{除脂肪体重}+\mathrm{脂肪重量})\mathrm{[kg]}}{\mathrm{身長[m]}^2}
 \mathrm{エネルギー消費量} = \mathrm{基礎代謝量}+\mathrm{活動時代謝量}+\mathrm{食事誘発性熱産生}

また、マニアックな部分ではPCRのバンド、質量分析におけるTICも合計値であり、それだけ見ていると見落としが生じる部分かもしれません。例えばPCRでは1塩基置換のように細かな部分はバンドが重なるかと思いますし、TICもマススペクトルまで確認しなければ性質の似たものを一括に扱うことになります。

ここまでは合計値として扱うことの悪い側面を強調した気がしますが、これらにはもちろん良い側面もあるかと思います。IQであれば一定以下であれば本当に支援が必要という簡易基準となりますし、身長やBMIもプライバシーや測定の簡単さに配慮した測定値です。エネルギー消費量もエネルギー摂取量と比較する目的であれば有益な指標です。PCRのバンドやTICも全体の傾向を把握するためには有益です。

身の回りには色々な合計値があり無意識でも利用できるようになっているものですが、少し意識して分解してみると、世界はもっと面白く、分解結果が役に立つこともあるかなと思うこともあります。