イヌとネコの食物不耐性の条件・分類・臨床兆候

レビュー論文“Food intolerance in dogs and cats”(J. M. Craig, JSAP)からイヌとネコの食物不耐性の概要を紹介します。内容は正確でないことをご了承ください。

食品不耐性の条件と分類

食中毒や食物アレルギーという言葉はしばしば見かけますが、食物不耐性(food intolerance)という用語はこの論文を読むまで知りませんでした。以下の条件を満たす場合を食物不耐性と呼ぶそうです。

食品不耐性の条件(Anderson 1986、Halliwell 1992)
  • 食品あるいは食品添加物に対するあらゆる異常な生理学的反応。
  • 本質的に免疫反応ではないと考えられている(食物アレルギーは除外される)。
  • 食中毒(food poisoning)、食物特異体質(food idiosyncrasy)、直接的な食物毒性、薬理学的反応、代謝反応を含む。

食品を食べることで発生する異常から食物アレルギーを除いたかなり広い用語という理解です。食品アレルギーと共にヒトの医学から獣医学へ輸入されましたが、獣医学領域では食品アレルギーと比べて情報が乏しいそうです。一部を除いて有病率はほとんど不明とのことですが、イヌでは真の食品アレルギーよりも一般的だろうと考えられているそうです。

機序によって次の通り分類できるそうです。

食物不耐性の機序による分類(Cave 2013)(論文Table 1より)
  • 食中毒
  • 薬理学的反応
  • 代謝反応
  • 消化管の運動不全(dysmotility)
  • 消化管の微生物叢異常(disbiosis)
  • 物理的作用
  • 非特異的食品過敏症(Non-specific dietary sensitivity)

食品不耐性の臨床兆候

ヒトでは皮膚、消化管、呼吸器、中枢神経系への影響が報告されており、過敏性腸症候群IBS)や湿疹と関連する場合もあるそうです。イヌとネコでもヒト同様に多彩な臨床兆候を示し、通常は用量依存的で、年齢を問わず、症状の出る期間もばらばらで食後数時間から数日後に発症して数時間から数日継続します。鑑別診断は広範で特異的な検査方法はなく、複数の食品群が同様の症状を示すことから犯人探しも難しいそうです。

食品不耐性と断定できる症例は稀ですが、イヌでヒトIBSに似た症候群が報告されているそうです。また、イヌとネコの大腸炎(colitis)において食品の影響が強く出る場合が報告されています。

参考文献

より詳しく調べたい方は以下の論文をご参照ください。個別の事項について参考文献が丁寧に記載されており、情報を追いやすいと思います。

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NHA 2017 (3) Epithelial tissue(上皮組織)の概要

NHA 2017の大セクションEpithelial tissue(上皮組織)の概要です。

Epithelial tissueの中小セクション

Epithelial tissueの中および小セクションは以下の通りです。名前の通り、上皮細胞や基底膜、上皮の種類、器官としての腺から構成されます。

英語 和訳
Epithelial cell 上皮細胞
Basal membrane [Basement membrane] 基底膜
Surface epithelium 被蓋上皮
Glandular epithelium 腺上皮
Gland as an organ 器官としての腺
Exocrine gland 外分泌腺
Endocrine gland 内分秘腺

Epithelial cellの項目

Epithelial cell(上皮細胞)の項目は以下の通りです。上皮細胞の形態による分類と方向を示す用語から構成されています。

英語 和訳
Squamous epithelial cell 扁平上皮細胞
Cuboidal epithelial cell 立方上皮細胞
Columnar [Prismatic] epithelial cell 円柱上皮細胞
Non-differentiated epithelial cell 非分化上皮細胞
Ciliated epithelial cell 線毛上皮細胞
Epithelial cell with microvilli 微絨毛を持つ上皮細胞
  Microvillus border 微絨毛面?
    Brush border 刷子縁
      Striated border 線条縁
Epithelial cells with streocilia 不動毛をもつ上皮細胞
Pigmented epithelial cell 色素上皮細胞
Secretory epithelial cell 分泌上皮細胞
Microfold cell [M-cell] M細胞
Neurosensory epithelial cell 神経感覚上皮細胞
Sensory epithelial cell 感覚上皮細胞
Cryptal enterocyte 陰窩腸細胞?
Luminl surface 管腔面
Apical surface 先端面
Lateral surface 外側面
Basal surface 基底面
Basolateral surface 基底面、側底面
  Basolateral space

腫瘍と過形成とほくろ

とある本を読んでいたら、腫瘍と過形成の違いは刺激がなくなると消えるかどうかと書いてありました。どちらも増殖性病変ですが、刺激がなくなっても増えたままなのが腫瘍、刺激がなくなると元に戻るのが過形成だそうです。厳密には他の条件もあるかと思いますが、ほくろに関してはこの理解が分かりやすいと思いました。

ほくろは医学的には色素性母斑(pigmented nevus)といい、Wikipediaの「ほくろ」によると過誤腫(腫瘍と奇形の中間的存在)と考えられているそうです。さらにWHO分類では良性腫瘍として扱われているそうです。

ほくろは良性腫瘍と聞いて驚いたこともありますが、上記の定義を踏まえるとなんとなくしっくりきます。ほくろが紫外線や物理刺激で増えるとして、刺激がなくなったら消えるはずです。それなのに紫外線対策をして優しく扱っても全然消えないほくろ――良性腫瘍として扱いたくもなるものです。正確な理由は知りませんけれども。

ICD-10およびMeSHのページは以下の通りです。

  1. I78.1 Naevus, non-neoplastic - ICD-10(色素性母斑以外)
  2. D22 Melanocytic naevi - ICD-10(色素性母斑)
  3. Nevus - MeSH Descriptor Data 2019(母斑)

NHV 2017 (2) Visceraの概要

NHV 2017の見慣れない大セクションであるVisceraの概要です。結論として、Visceraは内臓の一般的な組織や関連する膜状器官について記載したセクションです。

Visceraの中セクション

Visceraの中セクションは下記の通りです。別の大セクションNerve tissueと同様、各中セクションに大セクションCytologyにあるような小セクション(灰色地で強調)は所属しません。

英語 和訳
General terms 一般用語
Peritoneum 腹膜
Omentum 網(腹膜のひだ)
Pleura and mediastinum 胸膜と縦隔
Pericardium 心膜

ここだけ見ると膜状器官のセクションのようですが、一般用語(General terms)の項目を見ると内臓全般であろうことが想像されます。

Visceraの項目

Visceraの各中セクションに含まれる項目は下記の通りです。

英語 和訳
General terms 一般用語
Mucosa [Mucous tunic; Mucois membrane] 粘膜
  Submucosa [Submucosal layer] 粘膜下組織
  Muscularis [Muscular tunic] 筋層
  Adventitia [Adventitial tunic] 外膜
  Serosa [Serosal tunic] 漿膜
  Blood vessels 血管
  Intramural lymphatic vessel [intrinsic lymphatic vessel] 壁内リンパ管?
  Intramural nervous plexus 壁内神経叢
  Parenchyma 実質
Stroma 間質
Gland
Peritoneum 腹膜
Serosa [Serosal tunic] 漿膜
Omentum 網(腹膜のひだ)
  Serosa [Serosal tunic] 漿膜
  Omental trabecula
  Adipose lobule 脂肪小葉
  Milky spot
  Omental fenestration
Pleura and mediastinum 胸膜と縦隔
  Serosa [Serosal tunic] 漿膜
Pericardium 心膜

General termsの項目を見ると臓器を構成する一般的な組織について記述していることが分かります。従って、Visceraは内臓という訳のままで良いかなと思っています。

NHV 2017 (1) 大セクションについて

まえがきと注意

World Association of Veterinary Anatomists (WAVA)の公開するNomina Histologica Veterinaria (NHV) 2017, First editionのセクションについての文章です。お手持ちのテキスト等との比較用にご利用いただけますと幸いです。

この記事ではNHVのセクション階層、例えばCytology/Cell/General morphologyをそれぞれ大・中・小セクションと呼びます。また、和訳はこのノートの作成者が勝手につけたものであり、誤訳等の責任はこのノートの作成者にあります。

大セクション一覧

和訳 英語
細胞学 Cytology
上皮組織 Epithelial tissue
結合組織 Connective tissue
血液およびリンパ液 Blood and Lymph
筋組織 Muscle tissue
神経組織 Nerve tissue
内蔵 Viscera
消化器系 Digestive system
呼吸器系 Respiratory system
泌尿器系 Urinary system
雄性生殖器 Male genital system
雌性生殖器 Female genital system
内分泌系 Endocrine system
心血管およびリンパ系 Cardiovascular and lymphatic system
神経系 Nervous system
感覚受容体および感覚器 Sensory receptors and Sense organs
外皮 Integument

感想

組織学の基本単位である細胞(Cytology)から始まり、細胞とその分泌物の集まりである組織(tissue)、組織の集合である器官の系(system)へと記述されています。組織と器官系の間には聞き慣れない内蔵(Viscera)が挟まっています。細胞と器官系は同じ大セクションとなっていますが、扱うサイズが異なるので中・小セクションの分け方も若干異なっています。詳しくはWAVEのDocumentsページよりオリジナルPDFの各セクションをご覧ください。

感染症のHE染色組織所見(1) 日本紅斑熱

IASAのページ

ヒトおよびイヌの日本紅斑熱では組織所見(HE染色)は以下の通りだったとのことです。

  1. 血管周囲性リンパ球浸潤(ヒト、紅斑皮膚生検)
  2. フィブリン析出を伴う壊死性潰瘍(ヒト、刺し口皮膚生検)
  3. 小腸、腎臓、精巣、肝臓等のマクロファージ集簇(イヌ、剖検)

ヒトでは血清抗体価検査の前に行われた早期の皮膚生検結果が上記の組織所見と理解しています。時期や経過は書かれていないので不明ですが、イヌの剖検例でマクロファージを認めたことから、ヒトでも慢性期にはマクロファージが集簇するのではないかと想像します。

そういえば肉眼的な紅斑の原因は血管周囲性リンパ球浸潤を伴う炎症によるものでしょうか。

日本紅斑熱の早期診断:皮膚生検を利用した免疫染色の実用性 - IASA

関連病変のイヌ組織所見

PubMedでイヌの紅斑熱一般の組織所見を調べたら次の論文が見つかりました。どちらも組織像(HE染色)があります。追って概要を追加しようと考えています。

  1. Rickettsia rickettsii Whole-Cell Antigens Offer Protection against Rocky Mountain Spotted Fever in the Canine Host
  2. Clinical Presentation, Convalescence, and Relapse of Rocky Mountain Spotted Fever in Dogs Experimentally Infected via Tick Bite

メモ「Acute Hepatic Failure in a Dog after Xylitol Ingestion」(J Med Toxicol)

イヌのキシリトールxylitol)中毒について勉強するために読んだときのメモです。内容の正確性は担保しません。下記の原文をご確認ください。

www.ncbi.nlm.nih.gov

  • キシリトールの性質
  • CAS番号:87-99-0
  • 分子量:152.145
  • 分子式:C5H12O5
  • 示性式:HOCH2[CH(OH)]3CH2OH
  • キシリトールの分布・歴史
  • 多くの果物や野菜に含有
  • 発見はHermann Emil Fischer、1891年 -- フィッシャー投影式の作成やカフェイン等を特定・合成した偉人
  • WWⅡ中のスクロース不足で合成・使用が増加
  • WWⅡ後は精製コスト・時間で使用量減少
  • 1970sに健康上の利益から使用量再増加
  • ヒト、アカゲザル、ウマ、ラットには安全、イヌには毒性
  • LD50 -- イヌ:not yet been established -- マウス:>20 g/kg -- ウサギ:4~6 g/kg -- ウシ、バブーン、ヤギ:不明

  • キシリトールに対するヒトの性質と利用

  • sweetness index\simsucrose
  • 抗腫瘍効果、一般的な口腔内細菌に対する抗微生物効果
  • 低GI(グリセミック指数、glycemic index)
  • 低カロリー(2.4 kcal/g、スクロースは4.0 kcal/g) -- 糖尿病患者の甘味料
  • 術後の腸管運動性改善
  • 血中濃度最大は摂取3~4時間後
  • >130 g/day摂取で下痢(体重あたり未記載)

  • キシリトールに対するイヌの性質

  • 低血糖(hypoglocemia)0.1 g/kg bw(摂食)
  • 肝壊死(hepatic necrosis)0.5 g/kg bw(摂食) -- 肝細胞壊死? -- 程度、部位、回復性不明
  • ここ10年はガムや飴の誤飲が主
  • キシリトールを含むヒト医薬品のイヌへの適用を危惧
  • キシリトール入りのシュガーフリーピーナッツバターを危惧 -- アメリカでは飼い主がおやつや服薬の補助として使用
  • 生理活性 -- 濃度依存的に膵臓インスリン分泌誘導 --- 同量のグルコースの2.5~7倍 -- 血中最大濃度(Cmax)は摂取0.5時間後(Tmax) -- 70~80%は肝臓で酸化されてD-xylulose --- D-xylulose→ペントースリン酸経路(pentose phosphate pathway) --- D-xylulose(ほとんど)→G6P→F6P→グルコース --- D-xylulose(少量)→ラクトース -- 20~30%は肺、腎臓、心筋、脂肪、赤血球で代謝 --- carbohydrate metabolism→CO2+水
  • 中毒症状 -- 嘔吐、無気力、衰弱、運動失調(摂食後30~60分) -- 凝固障害(coagulopathy)(まれ) --- 急性肝不全、DIC(播種性血管内凝固症候群、disseminated intravascular coagulopathy)
  • 肝壊死 -- 原因不明だが2つの仮説が存在(註:liver cellは肝細胞と解釈) --- 肝細胞のATP枯渇 --- 肝細胞のNAD(nicotinamide adenine dinucleotide)増加 -- 肝細胞のATP枯渇 --- 細胞機能(タンパク質合成等)、細胞膜統合性の破綻→細胞壊死 -- 肝細胞のNAD増加 --- ROS増加→細胞膜やmacromolecule障害→細胞壊死

  • 症例

  • チワワ、去勢雄、95 kg、9歳齢
  • キシリトール顆粒224 g(45 g/kg)を摂食、1時間後に継続的な嘔吐
  • PE (physical examination) -- 腹部不快感
  • CBC(摂食後1.5時間):正常
  • CCB(摂食後1.5時間→4日後までの傾向) -- 血糖低下Hypoglycemia(60 mg/dL)→増加 -- カリウム低下Hypokalemia(3.1 mmol/L)→回復 -- ALT軽度増加(203 U/L)→増加 -- ALP正常 (11 U/L)→(増加) -- 総胆汁酸増加(0.7 mg/dL)→増加→軽度増加 -- その他のパラメーターも変動
  • 処置(省略)
  • Maropitant(neurokinin-1受容体アンタゴニスト) -- 嘔吐制御
  • Intravenous dextrose -- 低血糖制御
  • Metronidazole -- 肝臓感染症の予防的投与
  • PT、PTTの増加 -- 凝固能亢進を示唆
  • 結合性の低さから活性炭は不使用